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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(あ)547号 決定 1953年12月17日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人菅野勘助の上告趣意第一点について。

所論は、違憲をいうが、その実質は、単なる訴訟法違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、第一審公判調書によれば、検察官は、拳銃一挺所持の点につき角待義の各供述調書の取調を請求し、被告人及び弁護人は、右書面を証拠とすることに同意し、且つ証拠調には異議がなく、検察官は、証拠書類を朗読した事実が認められるから、所論の訴訟法違反も認められない。尤も記録中に添附されている角待義の聴取書は、原本ではなく、謄本であることは所論のとおりであるが、証拠調が終った証拠書類は,裁判所の許可を得たときは、原本に代え、その謄本を提出することができることは、刑訴三一〇条の認めるところであるから、記録に添附された証拠書類が謄本であるからといって、証拠書類の原本について証拠調がなされなかったとはいえない。また、仮りに右供述調書が初めから原本ではなく、謄本であったとしても、被告人並びに弁護人がこれを証拠とすることに同意し且つこれが証拠調をすることに異議がなかった以上、証拠調は、完全に施行されたものであって、所論のごとく公判調書に記載された書面が全然ないことに帰着するともいえない。

同第二点について。

所論は、違憲をいうが、その実質は、単なる訴訟手続違背の主張であって、同四〇五条の上告理由に当らない。そして、人定質問に関する刑訴規則一九六条の規定は、被告事件につき被告人に陳述する機会を与えるため、起訴状の朗読前予め被告人の人違でないことを確かめるための訓示的規定であるから、起訴状の朗読をしない控訴審の手続にはこれが準用あるものではない。

控訴審においては、被告人が出頭した場合でも適宜の方法によってその人違でないかどうかを取り調べるを以て足りるものであって(刑訴規則一一五条参照)、必ずしもいわゆる人定質問をするを要しないものといわなければならない。それ故、原審の訴訟手続には所論の違法も認め難い。

同第三点について。

所論は、単なる訴訟手続違背の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、原審公判調書によれば、裁判長は、判決の宣告を為す旨を告げ判決主文を朗読し同時に理由の要旨を告げた旨の記載があるから、原判決の宣告は、判決主文を記載した書面に基きこれを朗読し、判決理由は原稿その他に基きその要旨を告げたものであること明白である。そして、刑事判決の宣告は、民事判決の言渡(民訴一八九条一項参照)とは異り、必ずしも判決原本に基き宣告するを要せず、右のごとき方法を以て足りるものであることは、刑訴規則三五条二項後段の規定するところである。されば、判決の宣告は先ず判決原本を作成しこれに基くことを要することを前提とする所論は、刑訴四一一条一号の職権発動を求める主張としても採用し難い。

よって、同四一四条、三八六条一項三号、一八一条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)

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